北区・造幣局、お花見だけやあらへんで(情報提供:都島区・栗川長人氏)

CONTENTS
 
■スポット解説

 造幣局といえば大阪市民、いや近畿の人々にとって、「通り抜け」という春の季節を代表する一大イベントの地である。私も数度、「通り抜け」たことがあるが、いろんな種類の桜が植えられ、特にライトアップされた夜などは壮観である。

 ここの桜は、大阪市内で最も遅く咲く。従って「通り抜け」が始めると、春もひと段落し、いよいよ若葉の香りが街にあふれ出す。要するに「造幣局の通り抜け」は、単にお花見の場を提供するだけではなく、楽しい初夏の訪れを告げるイベントでもあるわけだ。

 造幣局には別の思い出がある。小学校高学年の時、社会見学で来たことがあった。いうまでもなく、ここは日本の「貨幣・貴金属地金工場」なのだ。明治以来の歴史を持つ。

 明治になって首都機能が江戸(東京)に移った。当然だが、その時からあらゆる分野の「首都一極集中化」が始まっている。大阪の地盤沈下は、何も第二次大戦後からの話ではない。この時からすでに始まっていたといえるだろう。

 それではいかん、ということで政府機関の誘致が図られた。そのひとつが貨幣を造る工場、つまり「造幣局(当時の呼び名は造幣寮貨幣鋳造所)」だったわけである。しかし、誘致できた政府機関が「工場」であったのは、その後の工場都市(工業都市ではない)大阪を予感させていて面白い。

 この時代の遺構が現在もなお、ある。ひとつは「泉布観」である。元来は造幣局の応接施設であった。もうひとつは「桜宮公会堂玄関」。これは鋳造所の正面玄関として作られたものである。現在は国道1号線を隔てた北側の泉布観のそばに、当時の姿そのまま移設されている。

 両者とも明治4年(1871年)の造幣局開設とともに建てられた。現存する中では、大阪市内で最も古い洋館だ。このことだけで一見の価値あり、といわずにおれない。大阪には明治、大正、昭和初期の素晴らしい建築物が残っていたが、多くのものが軒並み壊されていった。「重要文化財」として指定されたこの二つの建物は、文化財ゆえにかろうじて生き残れたのだ。

 この周囲には、数年前まで三菱金属の大阪製錬所があった。これもまた、工場都市・大阪を象徴する存在だった。現在は、新しいプレイスポットともいえるOAP(大阪アメニティ・パーク)が、製錬所にとって代わっている。

 明治以後、工場を都市発展の推進力として選んだ大阪は、生活環境としての街と人間を、結果としてスポイルする方向に向かった。

 今、その変遷の中で、最もスポイルされてきた「アメニティ」を名乗る施設群が、「工場」にとって代わり、「工場」の一部が重要文化財として残る。まさに時代の流れというものの趨勢を見た気がする。あるいは大阪にとっては、単なる時代の皮肉だけなのかもしれないが・・・。

 そんな時代の変遷を考えながら、しばしのさんぽを楽しむのはいかがか。この目と鼻の先には、本ウェッブの別項で紹介している網島もある(都島区・今様「天の網島」参照)。

 時代の流れもものかは、「ワシはいつの時代も変わらんで〜!」とでもいいたげに超然と流れる大川が、美しい風景で楽しませてくれるだろう。



■地図とおすすめコース


●造幣局

明治政府が近代的な貨幣システムの確立を図って、西洋式の貨幣鋳造所として明治4年に設立。当初は造幣寮と呼ばれていましたが、その後、造幣局に改称。大蔵省に属する機関で、貨幣の鋳造や貴金属の地金精錬の他、検査、認定などを行っています。

毎年4月下旬に局内敷地に植樹した桜を一般開放する、いわゆる「造幣局の通り抜け」が、大阪の風物詩として定着しています。

----------------------------------------------------------------
●泉布観

造幣局の応接所として明治4年に建てられました。大阪市内最古のコロニアル風の洋風建築です。設計はイギリス人のウォートルス。

ちなみに「泉布」とは「貨幣」のことで、明治天皇が名付けられたもの。以来、皇室や外国使節の宿泊所としても活用されてきました。重要文化財に指定されています。


----------------------------------------------------------------
●桜宮公会堂玄関

造幣局の正面玄関として、これもまた明治4年に建てられたものです。その後、造幣局の改修にともない、当地へ移設。昭和31年に、泉布観とともに重要文化財に指定されました。



----------------------------------------------------------------
●銀橋(桜宮橋)

大川の上で美しい銀色のアーチ型を見せる橋。国道1号線の架橋です。最先端の造形美を見せる川崎橋とは趣が異なり、こちらは時代の風格を感じさせる堂々のシルエット。

銀橋が最も美しく見えるのは、環状線が大川の鉄橋を渡る時。桜宮公園や網島、造幣局の緑、その向こうに見える大阪城を背景に浮かび上がる銀橋の姿は、大阪市内で最も美しい風景のひとつです。

   
(C) 1997 Takashi Tanei, office MAY