さんぽ人 放浪記・スウェーデン編:オーロラ紀行その1/1998年2月(text by オーロラけいこ/東京都在住)

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■北極圏の寒さについて

日本のみなさん、こんにちわ。スウェーデンから来た(多根井注:そういうことに、しておいてやってください)、オーロラけいこです

北極圏の気温は、マイナス28度です。でも、日本でスキーをするときの服装に、上下一枚ずつ増やすだけで、からだは寒くないんですよ。もちろんダマールという強い味方はありますが。

寒いのは、顔です。長時間外にいると、寒いというより、痛い、つらい、凍る、という感じです。鼻や口のまわりに、防寒のために布を巻くと、ちょっとはずしたすきに、息で湿った分だけ布が凍るのです。

また、顔を覆っていて息が上へ行くと、まつげにかかった息が凍ってまつげが白くなり、瞬きをするのがむずかしくなるので、できるだけまつげに息がかからないようにしなければなりません。また、スキー場でいくら転んでも、少しも濡れません。ウェアの雪がついた部分が、どんどん凍ります。

とにかく少しでも水分があると、すぐに凍ってしまうので、まわり中雪でも、とても乾燥しているのです。


■感動したこと

スウェーデンで一番感動したのは、実はオーロラではありません。福祉の力というか共生というか、そーゆーことについてです。

まず、レストランやマーケットの通路がとても広く、車椅子や、あの西洋風の大きな乳母車がらくに通れるようになっています。地下鉄の改札も、そういったものや大きな荷物を持った人のための改札口があり(大きな駅だけかもしれないけど)、わたしたちがスーツケースで苦労していたら通りがかりの人が、あっちを通りなさい、と教えてくれました。

駅には必ずエレベーターもあります(最近は日本でもほとんどあるけど)。重い重いスーツケースに参っていたわたしは、エレベーターのありがたみを、しみじみ感じました。

空港やホテル、マーケットには、子どもを遊ばせておく場所があります。数カ所しか訪れていないので、どのくらいの割合で設備があるのかは不明ですが。その遊び場は、10〜20畳程度で、ゴムボールが敷き詰めてあったりやわらかい大きなおもちゃがあり、こどもたちだけで遊んでいても安全なように見えます。

乳母車もいっしょに家族でレストランへ来ている人たちがいました(外食の習慣があまりないそうなので、たまのことだと思うけど)。小さいこどもも公共の場所で騒がないようにしつけられているんだろうけど、たぶん家族で行動することがベースにあるので、子どもがいっしょであるのがあたりまえのようです。

たぶん寒いせいでしょうが、外で食事をする習慣がなく、おやじ連中も仕事が終わるとおうちに帰って家で家族そろって夕食をとるのが普通だそうです。

最近は、レストランやパブ・バーも増えてきているそうですが金曜の夜に食事をしようと思ったら、どこもいっぱいで入れないほどだったので、まだ絶対数が少ないのでしょう。

そういうお店は、若い人たちでいっぱいでしたが。

途中で訪れたトナカイの牧場では、その牧場で働き、ガイドをつとめる人の中に耳の聞こえない人がいました。

今まで日本ではそんな場面に出会ったことがなかったので、驚きました。健常者の相棒がいて、彼とどうやって仕事をしているのか説明してくれたんだけど、なんというか対等なのです。

耳が聞こえないということだけフォローしてコミュニケーションを取っているけれどまったく特別扱いしていないのが、見ているだけで態度からわかるのです。

あー脈絡なくなってきた。

結論としては、日本はまだまだだなぁ、というところですね。

しかし、きっとスウェーデンも長い時間をかけてそうなっていったのだ。


■そしてオーロラは

スウェーデンは、日本のように、南北に細長い国です。首都ストックホルムは南の方にあり、オーロラが見えるのはうんと北の北極圏内です。

ストックホルムから飛行機で約2時間かかります。今回は、その北極圏内で5泊しました。

スウェーデンの国土の面積は日本の約1.2倍、人口は1千万人足らずなので、気候の厳しい土地でもあり、とにかく人の住んでいない場所が多いのです。

飛行機を降りたあとは、車で移動したのですが、行けども行けども、雪と針葉樹と凍った湖という風景。たまーに人家がぽつりとあったり、数軒の集落があったり。そんな場所で、オーロラを見るために5日を過ごしました。

地元の人に聞くと、今はあまり期待できない、とのこと。ま、5日もあれば1回ぐらいなんとか見られるだろう、とはじめは楽観的なものでした。旅行社のパンフレットにも見られる可能性は3日に1.53日(よくわからん)と書いてあったし。

しかし、それは甘かったのでした。

天気が1日のうちにめまぐるしく変わり、夜の天気の予想がつきません。朝吹雪でも夜は快晴だったり、その逆もあります。

どちらにしても曇りがちだったのと、寒さで体力を消耗してしまい夜中まで起きていられないという情けない理由で、とうとう4日間オーロラに遭遇することはできませんでした。

さて、オーロラを待って5日目、それまで滞在していたリゾート地から今回のもう一つのイベント「氷のホテル」へ移動しました。

もう、今日見られなければアウト、いったい何をしに極北の地にはるばるやってきたのか…(スキーもスノボもして、めちゃくちゃ楽しかったけど)

そして、今まで4日間見られず、今日見えるという保証もなにもなく、ま、見られなければしょーがねーや、また来るべ、とかなりあきらめ系の覚悟はしていました。

夜11時をまわって氷のバーで、氷のグラスで「ノーザンライツ(オーロラ)」というスペシャルカクテルを飲んでいると、日本人の旅行者が「オーロラが出ているらしいですよ」と言いながら、建物から走り出して行きました。あとを追いかけて見てみると。

ありました。

グリーンのカーテン状の光が。空のかなり高いところで、もやもやしながら、形を変えて動いています。あまりはっきりしたものでなく、色も一色で(赤いオーロラや7色など、色もさまざまだそうです)地味めでした。

ま、そんなに待ってたんなら、ちょいと出てやろうかね、とオーロラの神様が情けをかけてくれたような感じでした。

しかし、謙虚なわたしは大満足。

感動!というよりは、ふしぎだなーおもしろいなーという思いでしたね。

平均的には、1時間ぐらい現れて見ごろは10分ほどだそうでわたしたちが見ていたのは、30分足らず。一番の目的を無事達成して、氷のベッドへ向かうのでした。

以下、続く

   
(C) 1996 Takashi Tanei, office MAY