港区・渡し舟でいこう!

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■スポット解説

 俗に「水の都」といわれた大阪では、かつて橋の代わりに渡し船が重宝されていた。江戸時代まで溯れば、現在のOAPあたりにあった「源八の渡し」(現在は源八橋)など、市街地各所で見られた光景である。水害で橋が流されることが多かったこの地には、貴重な市民の足だった。

 その後、橋も鉄やコンクリートで強化されるとともに数を増やしていった。よく「大阪八百八橋」といわれるが、一時は市内に千五百を越える数が架かっていたそうだ。

 そんな中でも、未だに現役の渡し船として活躍しているのはいくつかある。特に行きやすいのは、港区と此花区を、安治川を越えて渡している天保山渡だろう(他に、大正区の千本渡など)。

 港区側は、天保山公園から。此花区側は、JR桜島線(西九条←→桜島間、約10分)の終点、桜島駅から 渡し船は、大阪市道の一部としての扱いなので、ありがたいことに無料である。何回乗ってもタダである。

 所要時間は、ほんの2分ほど。極めて短い。地域の人にとっては身近な「足」なので、自転車で乗ったり、通勤通学に乗ったり、気軽に利用されている。

 ところで天保山といえば、海遊館やマーケットプレース、サントリーミュージアムに加え、大観覧車もできて、プレイゾーンとしてますます充実した場所となった。

 それらの目玉スポットを覗く合間に、ほんの一息つくつもりで天保山に登り、この渡し船を往復してみるのもいいだろう(此花区側で一旦下船して、またすぐ乗り込めば、わずか10分もかからない時間で往復できる)。

 梅田方面から来る人は、この渡し船とJR桜島線を使えば、案外、短時間で天保山に行き帰りできるかもしれない(私の場合、天保山渡発からJR大阪駅着まで、電車待ちの時間を含めて約40分だった。「コースガイド」のページに渡し船の時刻表を掲示しているので、うまく活用して欲しい)。

 大きな船が行き交う安治川を、小舟でちょっと水上さんぽ。ディナークルーズのようなゴージャスさとは比べものにはならないが、川面で感じる心地好い風には、何ら変わりがないはずだ。


■地図とおすすめコース


●天保山

「天保山」といえば、今や「ハーバービレッジ」一帯が超有名で、大阪の代表的なウォーターフロントの地名となっていますが、そもそもは、その西側にある小山(丘?)を指します(標高18メートル。日本で一番低い山だそうな。写真参照)。
この山は、天保年間に、安治川の川浚えを行った時に、その土砂でつくられた人工の山です。
この工事自体が、一種の「見せ物」として多くの人を集めたそうですが、それ以来、大阪市民の格好の行楽地として栄えました。この賑わいは江戸時代末期の「浪華百景」にも描かれています(参考文献:鳴海邦碩/橋爪紳也編著「商都のコスモロジー」TBSブリタニカ 1990年)。
現在、公園として整備されており、頂上(?)の休憩所からは大阪港や安治川上流が見渡せます。
また、ちょうど頭上には、阪神高速湾岸線の天保山大橋が架けられており、美しい斜張橋の姿が、間近で見られます。

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●天保山渡

「うんちく」のページでも紹介した通り、この渡し船は、大阪市の市道。大阪市建設局が管理しています。

写真でご覧の通り、日中は1時間に2本の発着。待合所もありますので、急がなければ船がでるまで休憩したり、川を眺めたりして過ごすのもいいでしょう(ただし、あくまで「市道」なので、観光船の待合所のような売店とか自販機はありません)。

航行の所要時間は、わずか2分ほど。しかし、大阪港や安治川が、いつもと違う角度から見られて(下の写真参照)、なかなか新鮮。乗船のお勧め時間は、夕方。夕陽が大阪港に落ちる時間帯が最高だと思います。

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●安治川

大阪が歴史的に水害に悩まされてきたこと、そして昔から大工事を行って、水害を克服しようとしてきたことは、本「さんぽガイド」では再三再四、述べてきました。
江戸時代での大規模河川工事としては、新大和川の付け替えと並ぶのが、この安治川の開削工事です。
大阪市内を流れてきた大川は、当時、江之子島のあたりで九条島にぶちあたり、南北へ流路が別れていました。つまり九条島がモロに障害物となって、これが大雨の際には、増水した大川を氾濫させる一要因となっていたのです。
そこで貞享元年(1684年)、河村瑞賢の調査に基づき、この九条島を掘り割って、川を一直線にしてできたのが安治川です。
ちなみに、この開削によって九条島は二つに別れ、九条と西九条のふたつの地名を残して現在に至っています。

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●桜島


安保川をはさんで天保山と対峙している、此花区の臨海地域。渡し船の此花側乗り場があります。
ここから眺めるハーバービレッジや天保山は、写真でご覧の通り、なかなか筆舌に尽くしがたいものがあります。大観覧車、ポストモダン的な建築物群。それに、夕刻なら大阪湾に沈む夕陽も見物です。
海遊館やマーケットプレースなんかを見て回るのは、もちろん楽しいですが、ちょっと離れた場所から、これらを眺めるのもいいでしょう。

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●JR桜島駅

環状線の西九条駅から臨海部に延びるJR桜島線の終点。この駅も、大阪市内にありながら、 南海汐見橋駅と同様に、非常に味わいのある駅舎が魅力。
北海道かどこかの地方都市の駅の風情があり、見晴らしの良い操車場に生えたペンペン草(?)が、いっそう「旅情」かきたててくれます(いや、別に冗談で言っているわけではなく、本当に、いい雰囲気なんです)。
ここにはやがて、大阪市の肝煎りで「ユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)」が誘致される予定。その暁には、この駅も、浦安駅前のようにハイカラで賑やかになってしまうのでしょうが、なかなかこの雰囲気も捨てがたいかな・・・と。今のうちに見ておきましょう。

(1997年10月)

   
(C) 1997 Takashi Tanei, office MAY