平野区・土の香りの長吉長原

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■スポット解説

 都会を嫌う人々がよく挙げる理由のひとつに、「アスファルトやコンクリートのビルばかりで、土の香りがしない」というのがある。都市というのは、さまざまな人工物にあふれ、そもそも大地が持っているいろんな自然の恵みを、断ち切って存在しているかのようである。

 とりわけ大阪市は、人口一人当たりの緑地面積の小ささでもお馴染みの都市で、最近の大きな建物には公開空き地が義務づけられ、木々を植えたりしているけれど、全体として見れば、「焼け石に水」状態に近い(注1)。

 しかし、だからといって大阪市に「土の香り」を楽しむ場所が皆無か、といえば決してそうではなく、まだ、ある場所に行けば、それなりに土の香りや木々、草花の香りが楽しめる場所がある。

 そんな場所のひとつが、今回ご紹介する長吉長原近辺である。

 確かに、長居公園や鶴見緑地に行けば、それなりに木々や土の香りを楽しむこともできよう。だが、本当の土の香りというものは、単に土の面積が多いというだけでは不十分で、やはり、畑を耕す際、掘り起こされた土から発散されるものに勝るものはない。

 つまり、土が日常の中で活かされているからこそ、土もまた、強い香りで人にお返ししてくれるのだ。

 地下鉄谷町線の長原駅を中心にして、半径1キロぐらいを歩いてみると、この一帯が非常に畑の多い土地であることがわかるだろう。ひとつの畑の面積自体は、めちゃくちゃ広いというわけではないが、マンションや住宅の切れ目切れ目に畑が残され、全体として程良い調和の取れた雰囲気を醸し出している。

 春の天気がよい日にさんぽすれば、耕耘機で畑を耕している場面に出会えるかもしれない(さんぽ人は、大阪市に住まい出してはじめて、ここで耕耘機を見た)。

 畑には、タマネギやえんどう豆、ジャガイモなどが植えられ、八百屋でしか野菜を見たことがない子供にも、いい勉強になるだろう。

 また、大阪市が「フラワーガーデン事業(注2)」をすすめており、遊休地にはレンゲや菜の花などを植えるように推進しているようだ。これも時期が良ければ、きれいなお花畑が楽しめる(ただし、ああくまで遊休中の畑で行っているので、お花畑の中に入って、花を摘んで遊んだり・・・といったことはできない。それを期待して行けば、ちょっとガッカリするだろう。何を隠そう、さんぽ人一家がそうであったが)。

 はっきりいって、長吉長原一帯は、別に名所とか見るべきスポットがあるわけではない。それどころか、中央環状線や近畿自動車道が走り、その沿線では自動車の波で暑苦しいほどである。だからこそ、そこかしこにある畑の有り難さがよくわかるのではないか。

 大阪市で唯一といっていいかもしれないアスファルトと土の、奇妙な共存が、この長吉長原あたりの魅力といえば魅力になるのかもしれない。

注1)
 この問題に対して、磯村大阪市長(1998年7月現在)が、何のメディアだったか忘れたけど、コメントを行っていたので、紹介しておく。
 市長コメントの主旨としては「大阪市は、上町台地を除いて、海を埋め立ててできた都市である。もともと木々や草花なんてなかった土地なのだから、他の都市のように元から林や森があった場所とは比較できない。

 それを一生懸命、緑化しようとして、ようやくここまで来た。ゆえに緑化のペースは、全国でもトップレベルである」云々。

 さて、あなたの判断は?

注2)
 大阪市経済局都市農政センターが配っている資料には、次のように書いてある。
 「(前略)農地周辺の環境美化を通して花と緑のまちづくりに役立てるため、市内の農地を花畑にする『フラワーガーデン事業』を実施しています。(中略)市内23カ所で栽培しており、4月上旬から5月中頃まで開花する予定です。市民の皆様に開放いたしますので、ぜひ一度ご覧ください。(後略)」

 とはいうものの、大阪市の魂胆は、結果から見れば、きわめてお寒いものである。まあ、現地へ行けばわかるでしょうが。あの程度を指して「フラワーガーデン事業」を自称するなら、たとえば奈良の片田舎(大和高田の辺境とか)なんて、フラワーの殿堂でっせ。



■地図とおすすめコース


●長原駅周辺

 この駅の周辺には、大阪市がすすめている「フラワーガーデン事業」によって推進された、お花畑が、いくつかあります。
 「お花畑」という言葉がぴったりなように、どれも本当に小さな花畑ばかりで、正直言って、長居の植物園のような感覚で見に行くと、呆気にとられるほど小さいんですが・・・(我が家がそうでしたけど)。
 でも、どれも畑の一角に、菜の花やレンゲが植えられているようなもので、何だか昔懐かしい感じです。
 そういえば、奈良の大和高田生まれのさんぽ人にとっては、畑の周りにチョコチョコと花が咲いている光景っていうのは、そう特別なものではなかったけれど、今ではすっかり少なくなってしまって、本当なら、畑に自生するレンゲなんて、当たり前すぎて当然の光景なんだけど、それを大阪市の肝煎りで、人工的に作らなければいけない、というのが、今の大都市の、いろんな意味での限界なんでしょうねえ。
 とりあえず、春にこの辺に行けば、土の香りのする畑と菜の花とかレンゲ、という光景が、当たり前のように見られます。

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●喫茶&ギャラリー

 畑が所々残る、長原の一角に、なかなかいい喫茶店を発見。ギャラリー兼喫茶店でありまして、店内には、絵やらポスターやらが飾られ(販売もしている)、なかなかいい、雰囲気。
 聞けば、ここで絵画教室も行われているそうです。我が家の近所にあれば、きっと入り浸っていたことでしょう。

(1998年7月)

   
(C) 1998 Takashi Tanei, office MAY