天王寺区・和気清麻呂、大道めぐり

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  ■スポット解説

 谷町筋を、四天王寺西門からJR天王寺駅の方に向かって南下すると、茶臼山のあたりで一気に下り坂になっている。自動車なんかで通過すると、まさにガクンと落ちていく感じだ。

 堀越神社の南の交差点から天王寺駅に向かっては、再びゆるやかな上りになっているので、単に坂というよりは、この辺り一帯が「窪地」になっているといった方がよさそうだろう。

 大阪の古代を説明した書物なら必ず載っている話しがある。奈良時代、この辺りに、国家プロジェクトとして上町台地を貫く大水路を作ろうとしたというのだ。その工事総責任者には和気清麻呂があたったという。しかし、残念ながらこの工事は途中で頓挫したのらしい。歴史上の事実かどうかは、私にはさだかではない。

 その工事の跡が、この窪地だというのである。それだけではない、窪地の西にそびえる茶臼山古墳は、水路を開削した土砂を積んだものであるし(茶臼山古墳が本当に古墳かどうかは、実は明らかになっていないのだ)、茶臼山の麓にある河底(こそこ)池は、水路自体の名残だともいわれている。

 そればかりではない。ここら辺には「水路開削」にまつわる地名が付いている。現在の町名だけでも「大道」「堀越」「河堀」。もう消えてしまった字とか小字とかを入れたら、もっとあるのではないか。

 この「和気清麻呂の水路」跡をめぐって歩いてみよう。もちろん、「山辺の道」などとは違い観光的な道路になっているわけがない。どこにでもある道だ。しかし、どこにでもある道にも、昔こんな話しや由来があったんだ、と思いながら歩けば、ちょっと違う感慨もあるのではないか。

 どこにでもある道に、違うスポットライトを当ててみる、こんな楽しみもあっていいと思う。




■地図とおすすめコース


●入り口は河堀口から

最初のとっかかりはやはり、その名もズバリの「河堀口(こぼれぐち)」から始めましょう。近鉄あべの橋駅から普通電車に乗って、ひとつめの駅が「近鉄河堀口駅」。
駅前には美味しいパン屋さんがあるので、食料を買っておくのもいいと思います。
この駅から北へ進み、阿倍野橋から杭全へ通じる大きな通りにでましょう。大通りに出たら信号を渡り、大通りに沿って少し西へと歩きます。200メートルほど行けば、JR環状線・大和路線のガードをくぐる小さな道があるので、その道に入ります。
ガードをくぐれば右手に大きなマンション、前方には教育大付属高校の校舎が見えます。ここら辺りが南河堀町です。

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●河堀周辺

こちらは「河堀」と書いて、文字どおり「かわほり」と読みます。町の大部分を占めているのが大阪教育大関係の施設。テニスコートやグラウンドをながめながらのさんぽです。
教育大付属高校のところを西に、天王寺駅方面に向かいましょう。2、300メートル行って、「そごう百貨店」の倉庫を過ぎた所を北へ。ちょうどあびこ筋へ通じるバイパスが頭上を通過しています。しばらくはこのバイパスに沿って歩くことになります。バイパスの高架が終わるところが、南河堀交差点。この交差点を西北方面に渡れば、そこは北河堀町です。

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●北河堀町周辺

ここら辺りから、本格的に水路跡というか、窪地を実感できます。この北河堀町や隣接する悲田院町には、いろんな史跡があるので、特に道を決めずにブラブラするのもいいかも。
水路めぐりの場合は、北河堀の交差点からちょっと北へ行き、ひとつめの信号、天王寺中学の南側の道を西へと入ります。
ここらは、天王寺駅のすぐ近所とは思えない静かな町並み。ゆっくり周りをながめながら歩きましょう。天王寺中学を越えて少し行けば、そこは堀越町になります。

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●堀越町

堀越町の中心にあるのが庚申堂。四天王寺の関連施設で、古くから信仰を集めているお堂です。境内や隣接の庚申堂公園で、ぜひぼーっとしたひとときを過ごしてください。河堀口で買ったパンで軽く腹ごしらえするのもいいでしょう。
公園と夕陽丘予備校(ここは実は20年近く前に私が通ってました!)の間の坂道を北へ向かいます。この坂が、つまりは「水路」の土手になるはずだったんでしょうね。思いの外、急な坂です。
坂の上の道を、再び西へ。目の前には谷町筋が見えてくるはずです。

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●堀越神社

谷町筋に出て、そのまま信号を渡ると、目の前は堀越神社。境内は小さいですが、木々が茂る落ちついた神社です。

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●河底(こそこ)池・茶臼山古墳

堀越神社まで来れば、最終地点の河底池までは目と鼻の先。しかし、神社から直接行けないのが辛い。まあ気長なさんぽといきましょう。
堀越神社から茶臼山方面に行くには、天王寺公園まで回らなくてはなりません。もちろん入園料が必要。公園に入ったら、陸橋を越えて美術館の方へ行きます。ここから美術館の前を通り過ぎると、河底池。しかし、もし時間に余裕があるのなら、美術館裏手の「慶沢園」をブラブラしながら抜けましょう。
現在では一般に開放されていますが、もともと慶沢園は旧住友財閥の庭園。中央に池があり、その周囲を散策できるようになっている和風庭園です。岩や木々がきっと心を癒してくれるでしょう。
慶沢園の北口を出ると、そこが河底池の入り口。道を下れば池が目の前に大きく拡がります。右手には菖蒲園もあり、盛りの時には美しい花を咲かせます。
池の中の橋を渡ると、茶臼山古墳。前述した通り、古墳かどうかは明らかではありません。ここは頂上まで遊歩道があって登れます。
古墳というより、どこか郊外の丘陵地帯をさんぽしている感じ。木の枝の間から見える大阪の街並みによって、案外、高くまで来たことに驚くでしょう。


以上、これがかつて和気清麻呂が開削を試みたという、俗に「大道」といわれる水路跡をめぐるさんぽ道です。ただ歩くだけなら1時間あれば充分。
しかし、ゆっくり見て回って欲しい道です。

   
(C) 1996 Takashi Tanei, office MAY