さんぽ叢書/読書日記:さんぽに連れて行きたい本

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大阪市内をさんぽするなら、行く先々の歴史や様子を、もう少し知っていた方が楽しいはず。ここでは私が今まで読んだ中で、さんぽに役だった面白い書籍をお教えしましょう。
なにぶん、昔に買った本もありますので、すでに廃刊したものも多いと思いますが、もし古本屋さんや図書館で見つけたら、ぜひご一読されることをおすすめします。


■「大阪古地図物語」原田伴彦ほか著・毎日新聞社

大阪を描いた古地図をもとに、歴史的な街の変遷について解説した書籍。
1色印刷なので載っている古地図自体は決して見やすくないが、時代時代の街のありようの変化が詳しくわかって、面白い。
教科書的な歴史本ではわからない細々とした内容が秀逸です。

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「歴史の散歩道 大阪市史跡連絡遊歩道」
 藤本篤監修・大阪市土木技術協会編

大阪市が現在、顕彰を進めている、大阪市内に残る史跡・古跡と、それをつなぐ「歴史の散歩道」を紹介した書籍。
大阪城とか天満宮といった超メジャーな史跡はもちろん、地元の人でも忘れているような、街角の小さな史跡もあげられていて、結構、意外性で楽しめます。
「歴史の散歩道」をもとに、自分お気に入りのさんぽ道を見つけることもできるでしょう。

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「写真集 大阪百景」福島明博著・大月書店

写真家の福島さんが撮影した、現代の大阪市内の姿を100枚の写真にまとめた書籍。
日頃何気なく過ごしているとわからないけど、結構、見とれてしまう場所とか、面白そうな景色があるんだなあ。そう実感させてくれます。
そうそう、こんな風景を発見することが、「さんぽ」の醍醐味かもしれません。

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「シティマップル大阪府道路地図」・昭文社

「さんぽ」の必需品といえば、地図。数ある地図の中で私はこれをおすすめします。
第一の理由。縮尺が1万分の1(つまり地図上の1センチが実際の100メートル)に統一されていて詳細である。元来はドライブ用の道路地図なのだけど、結構小さい路地なんかも表示されています。折り畳み式の大阪市街地図などは、大きく広げて見なければならないわりに、縮尺がそれほど小さくなく、結局は見づらいと思います。
第二の理由。しかも縮尺が統一されている、というのは重要なポイントです。よくある区ごとの地図(区分地図)は、区ごとに縮尺が違うので(面積の違う区を、同じサイズのページに掲載しているのだから、当たり前といえば当たり前ですが)、全体的な距離感が掴みにくいのです。
第三の理由。よくある区分地図のように市や町ごとに色が塗り分けられていない。色が町ごとに塗り分けられている地図は、よくないと思います。さんぽの場合、町ごとの区分けよりも道そのものが重要なわけだから、色が違うとかえって見にくいのです。
ポケット地図なんかに比べると大きくて重いですが、さんぽの強い味方になってくれると思います。

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「モダンシティふたたび」海野弘著・創元社

1920年代の大阪の建築物を紹介しながら、大阪におけるモダニスムを解説した名エッセイである。
著者の海野さんはモダニスム研究の第一人者。町中に残る名建築(しかし、本が発売されて以来、壊されてしまったものも数多い)をもとに、古きよき時代の大阪の香りを、見事に活写しています。
大阪紹介本としてだけでなく、現代と都市を考える上でも、いろいろ示唆を与えてくれる好著。

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「大阪大空襲−大阪が壊滅した日」小山仁示著・東方出版社

今までご紹介した本とは趣が異なるので、驚く方もいるかもしれません。しかし、大阪を「さんぽ」しようとする人なら、一度は目にしておいてもらいたい本です。
太平洋戦争の末期、昭和20年3月から8月14日(つまり終戦の前日)にわたり、大阪はB29の大編隊による数度の空襲を受け、多大な被害を被りました。この本は、そんな空襲の真の姿を、日米双方の記録を詳細に検証してまとめられた労作です。さらに、当時の方々の生々しい証言を随所に盛り込むことで、戦争という理不尽な行為の中でメチャクチャにされた、罪なき人々の姿を描いてみせてくれます。
ここに書かれているのは、地獄としかいいようのない光景。いまだに戦争にいろんな理由をつけ、美化する人々は絶えませんが、戦争には「正義」などかけらもないことが、わかるでしょう。
大阪大空襲があったのは、そんな大昔のことではありません。わずか50年ほど前のこと。まだまだ鮮明な記憶を持つ方もたくさんおられます。たった50年前に、この大阪にこれほどの悲劇があったことを、我々は決して忘れてはならないのです。
私は今、「大阪市内さんぽガイド」などというお気楽なページを開設していますが、自由に気ままに好き勝手に「さんぽ」できることの意味と意義を、じっくり考えなければ、と思っています。みなさんはいかがでしょうか?

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「近代大阪」北尾鐐之助著・創元社

この本が出版されたのは昭和7年。もう60年以上もたつのです。ではなぜ、私が知っているのかというと、1989年に復刻版で出たからなのです。「おいおい、なんでそんな古い本を紹介するの?」とおっしゃるかもしれません。しかし、この本がまた、面白いんですよ。
北尾さんはこの本で、昭和初期当時の大阪の街の様子や人々の生態をイキイキと描写しています。現在でいうならさしずめ、木津川計さんの一連の著作のノリとでもいいましょうか。で、昭和初期という時代設定がなかなか微妙で面白い。
これが江戸時代や豊臣時代の話しというなら、むしろ歴史の彼方の物語、という感じでいまひとつ親近感に欠けるきらいもあります。かといって、当然のことながらバリバリの現代でもない。近くて遠い、遠くて近い約60年前という微妙さが、この面白味の源泉なのでしょう。
当時、市長の関一(せき・はじめ。近代大阪にとっては恩人のような人。天王寺公園に関市長の銅像が立ってます)が御堂筋を作り、その下に地下鉄を開通させたりしました。大阪城の天守閣も彼の尽力によって復興したわけです。つまり、この60年の間に敗戦や高度経済成長なんかがありましたが、現代の大阪の基本的なあり方は、すでにこの時代に完成していたといえるのです。
人の生き方、暮らしぶりも、また然り。ビジネス街でも歓楽街でも、今と変わらぬ光景があります。電化、情報化は思いきりすすんだけれど、人の生き方は大差ない。戦争前だからといって、めちゃくちゃ暗黒時代でもないし、みんな今と変わらぬ楽しみを謳歌していたわけですね。むしろ、まさに日本第二の都市としての勢いを持っていた当時の方が、バブル不況にあえぐ現在より、活気ある生活がうかがわれるかもしれません。
いいかえれば、現在の大阪の「青春時代」がうかがわれるわけです。思わず「へぇ〜、今と同じやん」といってしまいたくなるようなことが、山ほどありますよ。全編、新しい発見に満ちているといえましょう。

 

   
(C) 1996 Takashi Tanei, office MAY